(角川文庫ソフィア) H・ハラー 著 福田宏年 訳
世界の屋根と呼ばれるチベット高原の聖都ラサへ。第二次大戦下、インドの捕虜収容所から脱走、ヒマラヤ山脈を放浪した末にチベットへ辿りついたオーストリア人登山家の手記。二年に及ぶ逃避行、そして外国人としては例外的にラサに受け入れられ、やがて少年時代のダライ・ラマ14世の個人教授をつとめた日々が描かれている。同名の映画の原作。
やっぱり映画より格段に面白いです(B・ピットがあまり好きでもないし)。
前半、厳しい寒さや見上げる高峰の美しさが印象的です。脱走当初は数名いた仲間のうち、結局意思を貫いてラサへ辿りついたのは登山家である著者と友人P・アウフシュナイターだけだったということからも、精神的にも体力的にも粘り強さが求められる旅だったことがわかります。収容所から脱走して、という経緯から装備は良いわけがありませんし、常に追われて、しかも入国自体が許されていないチベットの都へ向かう……過酷な旅なのですが、どこかユーモアの漂う文章に引き込まれてしまいます。
後半はラサに迎えられ(かなり後になるまで強制退去を命じられることを恐れています)、町に馴染んで友人を作っていく様子が楽しい。著者たち二人を受け入れたチベットの人たちの温かさやユーモアを楽しむ心が伝わってきます。年間の行事や様々な習慣が描かれて、1950年の中国による侵攻以前の記録としても貴重なものだと思います。
聖俗が一体となって国を動かす文化、世界の屋根といわれる場所にしては意外なほど多様の商品がならぶ市場の様子。保守的な精神と新しい物を取り入れる柔軟さ、前進力。正反対に思えるものが混在している風景は何だか不思議で、でも魅力的です。
著者は2006年1月7日、93歳で逝去されました。(2006/5/28再読)
- 2008/05/17(土) 19:59:12|
- エッセイ・旅行記|
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