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雪の下の炎

(新潮社) 
雪の下の炎雪の下の炎
(1998/12)
パルデン ギャツォ

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パルデン・ギャツォ 著  檜垣嗣子 訳


原題「Fire Under the Snow」。チベット仏教僧である著者は、1959年のラサ蜂起に関与したとして投獄され、その後1992年に釈放されるまで31年にわたり政治犯として獄中生活を送った。監獄内での度重なる拷問と闘争集会、飢餓という絶望的な状況にもかかわらず、著者を支え続けた希望――消えることのなかった炎とは何か。

プロローグ
第一章 虹の下で
第二章 俗世との絆を断って
第三章 蜂起
第四章 逮捕
第五章 脱走
第六章 青空の下に逃げ場なし
第七章 織物名人
第八章 文化大革命
第九章 労働による改造
第十章 「舵取り」の死
第十一章 廃墟の中で
第十二章 新世代の分離主義者たち
第十三章 敵と対峙して


 著者の覚書と取材テープをもとに書かれた自伝であり、中国によるチベット侵攻後の監獄の実態を証言するドキュメンタリーでもあります。
 著者は亡命時に監獄内で使われた拷問用具を持ち出しており、その後国連人権委員会で証言を行うなど精力的な活動を続けられています。


 読み終わって一番印象に残ったのは、清明さ、でした。

 監獄内での拷問の描写は、淡々とした文章であるためにかえって痛ましい。そんな体験にも関わらず、著者は何故これほど静かな視線で周囲を観察し、語ることができたのだろうか、と読み終えて呆然としてしまいました。
 それは、ダライ・ラマ法王の存在、亡命チベット人たちの活動が実を結ぶと信じたこと。そして何より「間違ったことが間違ったままにされるはずがない」という信念だったのではないか、と思いました。

 共同執筆者による前書きにあるように、

パルデンがチベットの独立性を信じているのは、彼の経験上それが当然だからなのだ。ふたつの国は伝統、文化、言語、歴史において別のものである。彼にとって、それは牛乳と水が違うのと同じくらい明らかなのだ。

 ふたつの文化は異なっており、チベットが中国の一部でなかったことは明らか。事実が事実と認められないはずがない――そんな心情だったのではないでしょうか。


 また、第四章に書かれた、1959年のガドン僧院での学習集会のエピソードは印象的でした。
 そこでの官吏と僧侶との会話の何ともかみ合わないこと。ある中国人官吏が羊毛でできた僧衣を僧侶に示して、

「これは何からできているのか」
「羊毛です」
 官吏はあまりにも単純な答にめんくらった。通訳は質問を繰り返した。
「これは何からできているのか」
「羊です」僧は泣き出していた。
 だが、彼の答は間違っていた。僧衣の出所は被搾取農奴の労働と答えるべきだったのである。

「諸君を育てたのは誰か」と訊かれたこともある。もちろん「母です」と答えたが、これも間違いだった。プロレタリアートの労働と答えるべきなのだ。


 あまりにばかげたエピソードに見えて、これがエスカレートしたあげくに人間が殴られたり殺されたりしたのかと思うと、読みながら腹が立って仕方ありませんでした。
 のちに監獄で囚人たちが受けた拷問の場面は読み進めるのも辛く、実際、看守でさえ直視できなかった、と書かれています。

電気ショック棒を私の口に押し込み、出してはまた押し込んだ。体がばらばらになりそうだった。朦朧としつつもぼんやり覚えているのは、看守が窒息しないよう舌を引っ張っていたことと、嫌気がさした中国人看守のひとりが部屋から駆け出していく姿だ。

 二年間ずっと足枷をつけたり、熱湯をかけるなどの拷問、また靴の革を煮て食べたというすさまじい飢餓を経ても、なお周囲を冷静に観察し続けた著者の精神力は本当に大変なものだと思います。


 そして、もうひとつ。これは私が漠然と感じたことにすぎませんが。
 チベット侵攻から文化大革命、その後……と中国上層部の方針が変化した時に、それが組織の末端である役人の行動をこれほど直裁に左右していた、ということには驚きました(自白のために拷問したり、翻って規制をゆるめたり、抗議活動を容認するなど)。

 命令系統はよく機能していた、といえるのでしょう。その一方で、失策をとめる堰のようなものがない社会だったのではないか。また、「囚人―看守」という関係は、監獄の外においても「役人と上役とその上役……」というように、繰り返されていたのかもしれないと思いました。譬えていうなら、上層部から庶民までの思想のバケツリレー。
 あるいは、ドミノ倒し。右から倒せば、表を上にしてどこまでも倒れていき、一度立て直して左から倒せば、今度は裏を上にして……。そんな連想をしてしまいました。

 この本は1997年に出版、1998年に邦訳。その後は絶版となっていましたが、2008年12月にブッキング社より復刊されました。
 この本が出版されてから十年。
 この間に亡くなった人も数多く、2008年現在も拘束されている人々がいる――そう思うと複雑な気持ちになりましたが、少しほっとすることも。
 書中に書かれた政治犯の一人タナク・ジグメ・サンポ。彼は1964年、38歳の時に投獄され、この本の出版時点で「2011年に釈放の予定」となっていましたが、2002年に76歳で治療目的で釈放されたそうです。 (2008/9/5読了)

こちらが関連エントリー。

(2009/2/11追記)
 そして。映画「Fire Under the Snow」
(公式サイト→http://www.fireunderthesnow.com/

日本での公開が決まりました。
(上映予定はこちらで紹介しています)

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  1. 2008/09/07(日) 21:20:01|
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