(春秋社) 田中公明 著
チベット仏教はアジアの歴史と社会の中でどのような役割を果たしてきたのか。転生ラマ制度が歩んできた歴史をチベットの地理条件、国政とからめて語る、チベット文化論。
第一章 プロローグ
第二章 古代帝国の栄光
第三章 仏教の復興と転生ラマの誕生
第四章 ダライラマ政権の成立
第五章 チベット動乱と転生ラマ
第六章 チベットの現在と未来
著者はインド、チベットの仏教および美術研究が専門の方。
副題など見ると一見専門的な本かと思いますが、あとがきに「広く親しまれる本となることを期待する」と書かれているように、くだけた言い回しや俗諺を挙げた文章は読みやすいです。転生ラマ制度を歌舞伎や相撲の名跡にたとえたところは、お見事! と思いました。
また、チベットにおける仏教は「単なる宗教ではなく社会システム」であり、「最大の産業」という一面があったと語られています。宗教に馴染みのうすい日本人も「これならわかる」と言える気がします(是非はともかく)。こういう一面を忘れない視点が、私は好きです。
最初に手に取る入門書とは思いませんが、2歩目、3歩目に読むと視野が広がって面白いです。
教義そのものの説明はほとんどなく、チベット仏教が分裂、抗争をくりかえしながら成長、成熟してきた歴史が書かれています。支援者との結びつきが宗派同士の争いにも関係してきたという歴史は、なまぐさいけれど(え?)面白いです。
また、チベットの厳しい自然環境と農業生産力の低さの中で出家が人口調節システムとなっていたこと、アジアの大国(中国とインド)の間にあって交易が盛んだったこと。宗教を輸出することで、いわば不労所得者(すごい言い方ですよ)である僧侶集団が社会発展に貢献することにもなったという考察。仏教がチベットの花形産業であったという説明には、なるほどと思いました。
それと同時に。寺院が何百年ものあいだ社会システムとして機能してきたことを読むと、チベット人にとっては仏教は身に染み込んだものなのだろうな、とあらためて感じました。
これだけの伝統があっては、信仰のかたちが変化することはあっても、そう簡単に捨てることなどできないでしょう。こういうことは是非も思想も科学的根拠も関係ないのだな、と思います。
2000年に出版された本なので、最終章に書かれた将来への展望は丸まま飲み込むわけにはいかないのですが、それでも「どうなれば皆が得をするか」という視点には、今も説得力を感じます。
チベットは今後どうなるかと考えた時、この制度は近い将来に注目を浴びるだろうことは想像がつきます(今回再読したのも、そのためなので)。その時にはまた読み返してみたいと思います。(2003/3初読、2008/4/1再読了)
- 2008/04/01(火) 17:13:37|
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